一度の観劇だけでは、やはり筋をおって感想を述べるのは
難しいということに(今更ながら)気がつきました。
場面ごとの呟きは台本を手に入れてからにして、とりあえず初回の全体感想を。



今回の舞台、いままでみたなかで一番体力の要る芝居でした。
役者さんたちも、まさに真っ向勝負の張り詰めた舞台、
一瞬の遊びもない、ぎりぎりの精神状態が生々しく展開していくので
こちらも距離をとることが難しかったです。
でも、タイタスの時のようにように「心地よくまきこまれる」というのとは
違いました。感情的にはシンクロしないけれど目が離せない、
こちらも真剣勝負の2時間強でした。

高校時代、戦争状態でおこる集団心理に興味を持って、
心理学に進むことを決めた経緯があるので(動機の根本は多少違いますが)、
今回描かれた極限状態での心理状況や、集団力学は未知の領域ではありません。
むしろ、頷くところの多い内容です。ですが、それをこれほどまでに生々しく
凝縮してみせられるとは思っていませんでした。
「戦争はモチーフ」とは言い切れないまでも、それが主眼ではないことは伝わってきました。

ただ、あまりに真に迫っているだけに、あれほど長く怒鳴りあいのシーンが続くと
私には少々苦痛でした。リアリティを追求した結果なのでしょうか?
ラスト近く、兵隊達が皆横たわるシーンは、「死」の無機質さを具現化した
ものとしては、これまで見た中でもっともイメージに近かったです。
蝉の声の使い方も、印象的でした。
「あの夏」を知っている人たちの語る、時間の止まった正午の暑さが
一瞬頭を過ぎりました。



横田さん演じる辰巳少尉。
はじめは坊ちゃん風の新人将校が、現場にもまれて
右往左往しているという印象でしかありませんでしたが、
自らの出自や先が閉ざされた絶望によって、徐々に
精神が綻んでいく様子がみてとれました。
横田さん、まさにぎりぎりの迫真の演技。
特に、任務遂行の道が閉ざされてからの変化は、目を瞠るものがありました。
辰巳少尉を動かしていたのは、天皇や国への忠誠ではなく、
蔑まれていた自分たちが、「人」として認められるという
ある種の望みだったように思います。
軍の秘密指令は、それを実現するための大事な手段であり、
その道が潰えたことが、一番の絶望だったのではないかと感じました。
みているのがだんだん辛くなるような、胸に迫る血の通った演技でした。

緊迫した場面の、迫力のある姿もよかったですが、
印象的だったのは、最後のほうの場面で「晴れた…暑くなる」と呟くシーン。
おそらく、部落の出身である彼は、「人」として認められるために
過去の自分を捨て、新しい何かになろうともがいていたように思います。
先ほどまで、兵隊達に向けていた声や表情とは別人のような、
しずかで温かみさえ感じる声に、はじめて個人としての辰巳文雄をみたような気がしました。
「天気を当てることが巧かった」ために、竜神の末裔として蔑まれていた彼が
呟いた言葉であるがゆえに、余計にそう感じたのかもしれません。
最後まで土に在ることを嫌った彼の、その恐怖が
出自からくるもののような気がして、やりきれなさを感じました。



横田さん以外に注目した役者さんは、若松さんです。
はじめのころはちょっと調子が悪いのかな?と思いましたが、
案山子のような姿で再登場してからは、時に軽妙で味のある演技に
惹かれましたました。楠木大尉とは、全く違った人物をきっちり作りこんでいるところも
魅力的でした。存在感のある俳優さんですね。
前述のように久保さんもよかったです。叩き上げで職人気質、
「空に在る」ことに誇りをもつ芹澤曹長が、ひとりの個人として
うかびあがってくるような演技でした。


この芝居、正直見ていて愉快というものではありません。
でも、いろいろと考えさせられる濃い空間でした。
もう一度、今度は気合をいれなおして観劇してきたいと思います。






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