一度の観劇だけでは、やはり筋をおって感想を述べるのは 難しいということに(今更ながら)気がつきました。 場面ごとの呟きは台本を手に入れてからにして、とりあえず初回の全体感想を。 * 今回の舞台、いままでみたなかで一番体力の要る芝居でした。 役者さんたちも、まさに真っ向勝負の張り詰めた舞台、 一瞬の遊びもない、ぎりぎりの精神状態が生々しく展開していくので こちらも距離をとることが難しかったです。 でも、タイタスの時のようにように「心地よくまきこまれる」というのとは 違いました。感情的にはシンクロしないけれど目が離せない、 こちらも真剣勝負の2時間強でした。 高校時代、戦争状態でおこる集団心理に興味を持って、 心理学に進むことを決めた経緯があるので(動機の根本は多少違いますが)、 今回描かれた極限状態での心理状況や、集団力学は未知の領域ではありません。 むしろ、頷くところの多い内容です。ですが、それをこれほどまでに生々しく 凝縮してみせられるとは思っていませんでした。 「戦争はモチーフ」とは言い切れないまでも、それが主眼ではないことは伝わってきました。 ただ、あまりに真に迫っているだけに、あれほど長く怒鳴りあいのシーンが続くと 私には少々苦痛でした。リアリティを追求した結果なのでしょうか? ラスト近く、兵隊達が皆横たわるシーンは、「死」の無機質さを具現化した ものとしては、これまで見た中でもっともイメージに近かったです。 蝉の声の使い方も、印象的でした。 「あの夏」を知っている人たちの語る、時間の止まった正午の暑さが 一瞬頭を過ぎりました。 * 横田さん演じる辰巳少尉。 はじめは坊ちゃん風の新人将校が、現場にもまれて 右往左往しているという印象でしかありませんでしたが、 自らの出自や先が閉ざされた絶望によって、徐々に 精神が綻んでいく様子がみてとれました。 横田さん、まさにぎりぎりの迫真の演技。 特に、任務遂行の道が閉ざされてからの変化は、目を瞠るものがありました。 辰巳少尉を動かしていたのは、天皇や国への忠誠ではなく、 蔑まれていた自分たちが、「人」として認められるという ある種の望みだったように思います。 軍の秘密指令は、それを実現するための大事な手段であり、 その道が潰えたことが、一番の絶望だったのではないかと感じました。 みているのがだんだん辛くなるような、胸に迫る血の通った演技でした。 緊迫した場面の、迫力のある姿もよかったですが、 印象的だったのは、最後のほうの場面で「晴れた…暑くなる」と呟くシーン。 おそらく、部落の出身である彼は、「人」として認められるために 過去の自分を捨て、新しい何かになろうともがいていたように思います。 先ほどまで、兵隊達に向けていた声や表情とは別人のような、 しずかで温かみさえ感じる声に、はじめて個人としての辰巳文雄をみたような気がしました。 「天気を当てることが巧かった」ために、竜神の末裔として蔑まれていた彼が 呟いた言葉であるがゆえに、余計にそう感じたのかもしれません。 最後まで土に在ることを嫌った彼の、その恐怖が 出自からくるもののような気がして、やりきれなさを感じました。 * 横田さん以外に注目した役者さんは、若松さんです。 はじめのころはちょっと調子が悪いのかな?と思いましたが、 案山子のような姿で再登場してからは、時に軽妙で味のある演技に 惹かれましたました。楠木大尉とは、全く違った人物をきっちり作りこんでいるところも 魅力的でした。存在感のある俳優さんですね。 前述のように久保さんもよかったです。叩き上げで職人気質、 「空に在る」ことに誇りをもつ芹澤曹長が、ひとりの個人として うかびあがってくるような演技でした。 。 この芝居、正直見ていて愉快というものではありません。 でも、いろいろと考えさせられる濃い空間でした。 もう一度、今度は気合をいれなおして観劇してきたいと思います。 |
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