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彩の国さいたま芸術劇場で行われている蜷川幸雄演出「タイタス・アンドロニカス」、
1月21日のマチネに参加してきました。その感想とレポート其の2です。
<衣装>
今回の横田さんの衣装は、上下とも白。
ゆったりした形で、衣装の裾と長套(マント)は床に長くのびています。
紋章の入っている銀色のバックル、右手の人指し指(?)には指輪が。
はっきりいいまして、非常〜に似合っています。
単にかっこいいというだけではなく、立ち姿のきれいさや、眼差しの強さとあいまって
目を瞠るほど様になっていました。
この衣装は古代ローマのトーガ(ゆったりとした長い外套)を意識したものだと思います。
古代ローマでは、16歳までの男子は同じトーガでも深紅色のふち飾りがついているものを着ていました。
白いトーガは、成人男性の証だったようです。
因みに、今回の衣装、バシエイナスやタイタスなどローマ側の人間は白、
タモーラやエアロンなどのゴート族の衣装には、黒や赤・緑などの原色に近い色が使われていました。
第一幕
<あらすじ>
ローマの神殿では先帝なきあとその長子サターナイナスと次子バシェナイス
が皇帝の椅子を争っていた。そこへゴート族の女王タモーラとその息子たちを捕虜にして、
将軍タイタス・アンドロニカスと息子ルーシャスたちがローマに凱旋する。
タイタスは、戦死した息子達の霊を慰めるためタモーラの長子を生贄とする。
助命懇願を聞き容れないタイタスの非情さに、タモーラは復讐を決意。
流血の悲劇はここから幕をあける。
タイタスの推挙によって皇帝に任命されたサターナイナスは、そのお礼に
タイタスの愛娘ラヴィニアを皇后にと申し出る。
しかし、ラヴィニアは内密に、サターナイナスの弟バシエイナイス
と婚約していた。タイタスの息子たちもこの婚約を支持し、
バシエイナスはラビィニアを神殿から攫ってしまう。
面子をつぶされたサターナイナスはタイタスを罵倒し、意趣返しに
ゴートの女王タモーラを皇后に迎える。
<舞台レポート&感想>
バシエイナスとサターナイナスの二人が、舞台に背を向けて並び立っています。
はじめの一声は、サターナイナスから。
さっと振り返って「貴族諸侯、私の権利の擁護者達よ」と台詞をつづけます。
それをうけて、バシエイナスの横田さんも袖を翻し、振り返って
「ローマ人よ、友よ、私の権利を支持する味方の諸君」と声をあげます。
なんど聴いても横田さんの声には魅せられます。
よくとおる朗々とした響きで。
第一声は、少し声が伸びていないかな?と思ったのですが
徐々に調子が上がっていったようです。
兄のサターナイナスは、狭量で移り気、プライドだけは高いけれども
土壇場に弱いという、はっきりいって王者の器に非ズという気質です。
長男でなければ、まずもって王冠に縁のなさそうなタイプ。
鶴見さん、その駄目駄目な情けなさとプライドの高さを、うまく演じていたようにおもいます。
(迫力という意味では、少し弱かったかな?)
横田さんのバシエイナスは、いかにも誇り高きローマの皇子という感じです。
高潔で純粋。情熱的ではあるのですか、サターナイナスほど
情動に振り回されるタイプではないようです。
(ではバシエイナスが王者の器かというと、必ずしも断定できないのですが…)
ハムレットでも思いましたが、横田さん、
さらりとした気品のある人物像をつくるのがうまいな、と改めて感じました。
今回、衣装が長いので、体を動かすたびに裾や袖が翻るのですが、
その動きがとても鮮やかでした。
煩雑なところのない動作ができるのはさすがだなぁ、と思います。
*
サターナイナスとバシエーナスがすったもんだの兄弟げんかをしているうちに、
護民官マーカスこと萩原さんとその御一行が登場。二人にタイタスの凱旋を告げ、
ひとまず、その場は治まります。
萩原さん、この日は特別調子が悪かったのでしょうか?
台詞をなんどかかんだり、言葉がききとりにくかったりと、どきどきしてしまいました。
温厚で熟慮に長けたマーカスらしい雰囲気をもっているだけに残念です。
次回を期待しております!
そして、ついにタイタス・アンドロニカス、鋼太郎さんの登場!
今回の舞台、一階席の方は非常にラッキーです。
俳優さんたちが間の通路をなんども駆け巡りますし、
ロビーに続く扉から出入りします。(勿論バシエイナスも)
タイタスは、後ろの扉から登場。
さすがタイトルロールのタイタス・アンドロニカス。すごい存在感です。
一瞬にして、会場の空気がタイタスに収斂されていくのが分かります。
横田さんの仰るように、まさに夏の太陽。
…しかし、鋼太郎さん、ハムレットの時の映像が最も親しみぶかいので
随分シャープになられていて、びっくり。
私、かなりの衝撃を受けたようで、メモ帳には斜めに
「こーたろーさん…やせた…」と走り書きされています(笑)
いや、そのおかげで、ますます男前になられましたよ、勿論。
髪は金髪でした。そういえば、萩原さんも金髪だったので
『極好的中年・金髪的兄弟(ナイスミドル・金髪ブラザーズ)』というコンセプトでしょうか。
その鋼太郎さんの演技、やはり素晴らしいです
今回「このすさまじい感情にどうやってカタチを与えるのか、それを見たい」と
思って観劇したのですが、その意味では、はじめから凄いものをみることができました。
話の筋は粗いところがあるのですが、喜び、怒り、悲しみ、あらわれてくる感情がすべて
鮮烈でリアルなので、否応なく舞台にひきこまれてしまいます。
そして、感情の質が怒りから悲しみへ、動から静へ移り変わると、
纏っている雰囲気も舞台の空気も、ふっと色を変えるんですよ。
ほんとうに、凄い俳優さんです。
*
麻実れい演じるタモーラも、ここで初登場。
麻実さん、見事にいつものオーラを消し去っていて、はじめは存在に
気がつきませんでした。
タイタスに、タモーラの長男を生贄にすると告げられ、
涙ながらに嘆願する場面、まさに鬼気迫るものがありました。
何の理屈もなしに、ただただタモーラの感情にまきこまれ、
シンクロしてしまうような、ものすごいエネルギーの演技。
長男が殺された後で、放心から悲しみ、そしてたぎるような怒りと
憎しみへと変化していく表情も見事でした。
他に第一幕で印象的だったのは、
ラビィニアがサターナイナスの妃に選ばれた場面。
この後、話は「ラビィニア強奪・誘拐事件」へと急展開します。
原作では荒いな、と感じたこの展開、
バシエイナスが無言でマーカスたちと交わす視線やたたずまい、
それに表情で、後の場面にひき継ぐ素地をきちんとつくっていたので
原作のような荒唐無稽さは感じませんでした。
シェイクスピアは、やはり舞台にかけられてはじめて、
はっきりと命をもって立ち上がるんだなと感じた瞬間でした。
とりえず、第一幕はここまで。
…長い…ながすぎます、今回のレポート…。
いったい、どこまで書くつもりなんでしょうか、私。
第二幕からはさくさくと。
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